Touch the Heartstrings

心の琴線に触れる森羅万象を日々書き綴る「Touch the Heartstrings」

ユルゲン・ベイ

「コンセプチュアル・デザイン(Conceptual Design)」とは、1990年代以降、主にオランダを中心に欧州から世界中に広がったデザインの動向で、1990年代以降の「ダッチ・デザイン」とほぼ同義ともいえる。

「必要は発明の母なり」という考え方は、「ダッチデザイン」を表現する際のスローガンとしても掲げられている。つまり、状況が人々をクリエイティブにさせるとも言える。オランダのような小国が世界のデザイン界を牽引している理由の1つと考えられる。オランダ人はイノベーションに対する長い伝統がある。遠い昔、荒れる海や水害から身を守る為、優れた運河や堤防のシステムを構築してきた。今でも国のシンボルとして愛されている風車はその為に発明されたものだ。

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「コンセプチュアル・デザイン」は、プロダクトデザイン分野での総称であるが、グラフィックデザイン、建築デザインでも同様の動向が見られる。言語的なアプローチに立脚した意味操作的及び自己言及的なデザインで、主たる傾向としてリサーチ、ダイアグラム、レディメイド、組み換え、インターベンション、ドキュメンテーションなどの要素を持っている。

昨今のオランダ建築は、世界で最もクリエイティブであるとされている。その理由の1つとして景観を損ねることなく、また大金を投じることなく、人口密集国に住む人々に適切な住居を供給する必要性があるからだ。それは、独創的な解決策を生み出し、世界中の手本とされている。

卓越した「ダッチデザイン」は、難題を克服するための努力の結果である。デザイン文化のある他のヨーロッパ諸国、例えば、イギリス、ドイツ、イタリアと比べると、オランダ国内には自動車産業や航空宇宙産業、コンピューターのような産業がなく、それに対応して常に製品を進化させ続けるようなデザイナーの必要性はあまりない。

しかし、ダッチデザイナーたちは自分自身のためのデザイン文化を生み出さなければならなかった。そして、これまでにない視点のデザイン・ツール、ビジネス・ノウハウの提案などを積極的に行ない、基本的なスタンスとしてコンセプトとプロセス、作品性、作家性を重視し、従来のデザインの範疇を超える編集的なアプローチを採り、アート志向も強い「ドローグ・デザイン」に始まる一連のムーブメントが生まれた。それは、工業社会においてのデザインの意味することを根本的に見直すということだった。

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つまり、新しく、より良い製品を作り出すことにより、デザインは産業の役に立つという信念である。また、遠く離れた工場で大量生産するプロダクトを作るという事よりも、彼らがどのような形でデザインに寄与出来るかという、全く違う視点で工業デザインに注目した。そのプロダクトが何の為にあるのかという事よりも、そのプロダクトが持つ意味をより深く考え始めた。

その結果が「コンセプチュアル・デザイン」である。おそらく、この四半世紀で最も影響力あるデザインムーブメントであり、アート的な洗練さと、優れた工芸技術が融合されたものだ。そして、オランダの「コンセプチュアル・デザイン」のユニークさは、オランダの伝統的な素材や技術を介して生活とリアルに結びついているという点にある。

その好例は、「ドローグ・デザイン」の中心にいたプロダクト・デザイナーのユルゲン・ベイが1999年に制作した「木の幹のベンチ=Tree Trunk Bench」。切り倒した丸太にブロンズ製のクラシカルな椅子の背もたれを付けただけのベンチ。それは、誰もが一度は腰掛けた記憶のある丸太に背もたれを付けるという、誰もが考えそうで考え出さなかった一種の発明品である。

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飾り気のない丸太は座るためであり、またインテリアとしてとてもプレシャスで何か壮大な森の中で安らかに座るような気分になれるベンチだ。それは、自然の中にあるものにほんの少し手を加えることで生まれる、親しみのこもったモノと人との親和力を楽しんでいるようである。ベイの言うところの「自然と文化の素晴らしき相互作用」に他ならない。

また、「コンセプチュアル・デザイン」は、オランダ人の自己宣伝の才能を上手く表している。「Tree Trunk Bench」のようなモノは、長い間雑誌の巻頭特集を飾っていた、とても洒落ているけれども少々退屈なイタリアデザイン界でもたちまち高く評価され、ユルゲン・ベイはスーパースターとして、そして、その作品はピンナップとして飾られる程となった。

しかし、「コンセプチュアリズム(概念論)」の世界だけがダッチデザインではない。「コンセプチュアリズム」よりもダッチデザイン的なものが、オランダの深い個人主義、自己批判、進歩主義の伝統であり、世界でも有数の自由な発想をする国民であるという事実である。規則に縛られるのを嫌い、また、ユーモアのセンスと、オランダ人がオランダ人自身を笑い話に出来るという変わった特性でも知られている。それでいながら、自分のアイデンティティというものに誇りを持っており、若いオランダ人デザイナーは自国の文化的な伝説を恥じていないのだ。

ユルゲン・ベイは日々消費のために新しくつくられるモノの価値に対する疑問や問いかけから、ゴミをあさり、それをリサイクルすることによって、新しい価値あるものを創り出す。しかも、その作品にインテリジェンスを与えている。

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現在、ユルゲン・ベイと建築家のリアーネ・マッキンによるデザイン事務所「Studio Makkink & Bey」は、ロッテルダムを拠点に、公共建築から教育施設、量産品のデザインにいたるまで、幅広い分野で活動している。そんな彼らの活動の根底にあるのはデザインするモノとそのモノが置かれる状況との関係性を探ることにある。

オフィス空間をデザインするのであれば、オフィスから連想するイメージをまず壊すこと。そして、オフィスで何をしたいのか、何があればオフィスになるのかを考えることが大切と考える。そして、早くから未来の仕事場について考え、「Progressive Office(Prooff)」という概念のもと、先進的なオフィス空間を提案してきた。

ユルゲン・ベイが提唱する「Prooff」とは、「プライベート空間を充実させる」という方向からは180度異なる考え方で、「パブリック空間を不特定多数の共有スペースとして、もっと活用するべき」という思いにもとづいている。都市空間の柔軟な使い方から、また、新しい働き方、生き方まで提案する考え方になっているのが興味深い。

その「Prooff」を具現化した家具の1つが、「Ear Chair」。2009年に発表されたチェアで、ちょうど座った時に顔の周辺を囲むようにヘッドレストが広がっているため、適度に周囲の雑音をシャットアウトし、個の空間を創りだしてくれる。アームレストはノートパソコンを置いて作業をするのに最適な大きさ。座るだけで集中力を高めてくれるような雰囲気さえ感じるこの椅子、すでにオランダの大手保険会社のラウンジ等への導入実績もあるようだ。

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また、オフィスのラウンジなどに設置し、少人数の軽いミーティングなどで使われることを想定した「Work Sofa」。左右様々な方向に拡がるようなフォルムが印象的。モジュールとして拡張性も高いソファ、広がりを感じさせるデザインが自由な気風のオフィスにはピッタリだ。

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在日オランダ王国大使館は、2013年から2014年を通し、オランダのクリエイティビティを日本に発信するための多くのイベントを企画・後援するという。その第1弾として、渋谷ヒカリエの「Creative Lounge MOV aiiima」で、現在開催中のユルゲン・ベイの展覧会「未来の仕事場 Fantasy Room for working by Studio Makkink & Bey」を協賛。

ユルゲン・ベイが提唱する新しいオフィスのあり方を体感できる展示となっている。そして、展示会場壁一面に貼られたイラストには、理想の都市空間が描かれており、壁に投影されるアニメーションとともにユルゲン・ベイのユニークな考え方を垣間見ることができる。

余談ながら、現在、銀座の「メゾン・エルメス」のウィンドウが「Studio Makkink & Bey」の手によるディスプレイで彩られている。葛飾北斎の「富嶽三十六景 駿州江尻」に着想を得て、風にはためくカレ(スカーフ)を凧に見立てた動きのある軽やかなディスプレイを展開中。柔らかなテキスタイル、浮遊する動き、つむじ風、日本の画匠、そして、空想の風景をオランダの伝統的なウールフェルトで手づくりする職人の物語が繰り広げられる。ちなみに、3月18日までなのでお見逃しなく。

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昨日のWBCでは、日本のライバルである強豪韓国を5-0で見事勝利したオランダ。今年はオランダが注目される年になるかも知れない。