Touch the Heartstrings

心の琴線に触れる森羅万象を日々書き綴る「Touch the Heartstrings」

寺山修司

「下町の錬金術師」の異名をとり、詩人、劇作家、演劇実験室「天井桟敷」主宰をはじめ、歌人、演出家、映画監督、小説家、作詞家、脚本家、随筆家、俳人、評論家、俳優、写真家などとしても活動した寺山修司は、膨大な量の文芸作品を発表した。また、競馬への造詣も深く、競走馬の馬主になるほどであった。

メディアの寵児的存在で、新聞や雑誌などの紙面を賑わすさまざまな活動を行い、本業を問われると「僕の職業は寺山修司です」と返すのが常だった。

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数々の異名を取り時代を席巻し、1983年に惜しくもこの世を去った寺山修司だが、1967年に旗揚げした演劇実験室「天井棧敷」は、状況劇場の唐十郎、早稲田小劇場の鈴木忠志黒テントの佐藤信と並び、アングラ四天王と呼ばれ、1960年代後半から1970年半ばにかけて小劇場ブームを巻き起こし、数々の鮮烈的な作品を生み出し、その斬新さから社会問題として取り扱われ、スキャンダラスな内容で時代を挑発し続けた。

天井桟敷」という劇団名は、マルセル・カルネの映画「Les Enfants du Paradis(邦題:天井桟敷の人々)」に由来するが、寺山曰く、「好きな演劇を好きなようにやりたいという、同じ理想を持つなら、地下(アンダーグラウンド)ではなくて、もっと高いところへ自分をおこうと思い「天井桟敷」と名付けたという。

創立時のメンバーは寺山の他に、九條映子(当時寺山夫人)、高木史子、東由多加横尾忠則、青目海、大沼八重子、濃紫式部、小島嶺一、斉藤秀子、支那虎、高橋敏昭、竹永敬一、桃中軒花月、萩原朔美、林権三郎の全16人。「書を捨てよ街へ出よう」などの一連の著作により、若者の間で「退学・家出の扇動家」として認識され人気を得ていた寺山が主宰していること、また、劇団創立時のメンバー募集の広告が「怪優奇優侏儒巨人美少女等募集」だったことなどから、設立から長い間「一癖も二癖もある退学者や家出者が大半を占める」という異色の劇団になった。後に大島渚監督の映画「愛のコリーダ」で主演の阿部定を演じた松田英子や、「時には母のない子のように(作詞:寺山修司)」のヒット曲で知られるカルメン・マキが加入していることからも、60年代・70年代という時代の先頭を走っていた劇団の勢いがうかがわれる。

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1969年3月に渋谷に日本初のアングラ専用の劇場「天井桟敷館」を開館させ、同年には初の海外公演を実施。6月に西ドイツのフランクフルト「テアトル・アム・トゥルム」での「仮面劇 犬神」「毛皮のマリー」の2本立てを上演した。

ちなみに、この年の終わりには、当時ライバルであった「状況劇場」との乱闘事件が勃発した。これは、唐十郎が主宰する「状況劇場」のテント興業の初日に開幕祝いとして葬儀用の花輪を贈ったのだが、これは「天井桟敷」の旗揚げ公演の際に中古の花輪を贈られた事への小さな意趣返しだった。

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1969年12月12日の深夜に「天井桟敷館」は、唐十郎率いる「状況劇場」メンバーに殴り込みをかけられた。そして、乱闘事件を起こしたかどで、寺山、唐十郎を含む双方の劇団員9人が暴力行為の現行犯で逮捕されるという事件に発展し、世間を騒がせた。ただ、片やユーモアと言い、一方は話し合いに行っただけで殴り込みではないという。

欧米文化が入り乱れ、経済成長を遂げた日本においては、誰もが表現の自由を勝ち取る一方で、個性と集団の危ういバランスは様々な変革をもたらした。そして、演劇やアートの分野ではアヴァンギャルドと称され、多くの前衛的アーティストが輩出された。「天井棧敷」の創立時のメンバーでもあった横尾忠則をはじめ、宇野亜喜良粟津潔金子國義四谷シモンらが、アングラ劇団の公演ポスターや舞台美術を手掛けその才能を発揮した時代でもあった。

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当時のカウンターカルチャーは、この奇跡的に遭遇した彼らによって確立され、時代をリードした。そして、寺山の吐き出す情念的で感傷的な言葉の数々は、鮮烈な舞台上で過激な俳優たちによって語られ、その思想や情念は、当時をリアルタイムで知る事の無かった現在の若者たちにも色褪せる事なく衝撃と確かな影響を与え続けている。

2013年03月27日から4月07日までの期間、没後30年の節目になる寺山の業績を回顧する展覧会「寺山修司と日本のアヴァンギャルド」が、「Bunkamura Gallery」で開催される。この展覧会では、当時の貴重な直筆原稿や映画・舞台で使用した小道具、台本、ポスターなど貴重なアイテムの展示と合わせ、寺山と親交のあったアーティストはじめ、同時代である1960~70年代にムーブメントを興した時代の寵児たちの作品のほか、オリジナルグッズや書籍・DVDなどが販売される。

なお、三沢市寺山修司記念館では3月31日まで「寺山修司と天井棧敷ポスター展―演劇実験室天井棧敷の宣伝美術の全貌―」が開催されている。世界を駆け抜けて活躍した「天井棧敷」の演劇公演ポスターは、横尾忠則粟津潔宇野亜喜良などの一流のアーティストが手掛け、単なる公演告知のポスターの枠を越え、日本が熱く燃えた時代を鋭く切り取り、それらのポスター自体が発するメッセージは時代を越え今も輝き続けている。これらは現在美術的評価も高く、当時公演用に限られた数しか製作されなかったため、現存する枚数は僅か。現存する演劇公演の全てのポスターと演劇関連資料、また、寺山修司の演劇関係の直筆原稿、箱書(舞台進行表・生原稿)も公開されている。

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時代の先駆者の作り出す普遍的なアヴァンギャルドの世界観を堪能できる良い機会である。

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