Touch the Heartstrings

心の琴線に触れる森羅万象を日々書き綴る「Touch the Heartstrings」

KYOTO EXPERIMENT

東京を中心に実験劇場や小劇場運動が盛んだった1980年代、京都市では公演するにも劇場がほとんど無く、東京の劇団も素通りするような状態だった。こうした中で1984年に遠藤寿美子という女性が仲間らとともに左京区下鴨の住宅街に、提供された民家を使ってアートスペース「無門館(現アトリエ劇研)」を設立した。

それ以来、ここを京都の演劇活動の拠点として若い演劇人への啓蒙と支援を目指した演劇支援活動がスタートした。遠藤さんは無名だが個性的で、将来性のある京都の学生劇団や演劇サークルを次々と発掘し、彼らの発表の場として「無門館」を提供してきた。

この支援活動を通じて、現在、全国的にあるいは海外で活躍する優れた劇作家や演劇人を育成し、演劇界における京都の存在感を大きく高める牽引力になった。

遠藤さんは10年で「無門館」の活動を次世代にバトンタッチし、その後、舞台製作・企画のプロデューサーとして活躍の世界を広げた。総合芸術としての演劇のレベルアップに取り組みながらも、「芝居で一番大事なのは観客。自分が観客としてええな、と思うものを作りたい」と常に語っていたように、演劇が市民権を獲得し市民との出会いを作ることに遠藤さんの理想があった。

1991年から京都市が現状からの飛躍を期して芸術文化の活性化を図る「芸術祭典・京」では、演劇部門を担当。京都の街を劇場に見立て、寺社、広場、商店街などを舞台に、時には地域市民も巻き込んだ数々の演劇活動に挑戦してきた。そして、1997年には先の「芸術祭典・京」で、演劇部門プロデューサーとして自ら手がけた「月の岬」が、読売演劇大賞最優秀賞に輝いた。遠藤さんは京都にあって、京都在住の若い演劇人や市民と文化行政を結ぶ懸け橋として、大きな役割を果たした。

また、日本の伝統芸能を現代社会に生かす活動や、伝統芸能による海外交流に力を注いだ。ともすれば古都の名に安住しがちな京都にあり、遠藤さんはバイタリティと情熱で地域に根ざした新しい演劇創造を目指し、2002年にはサントリー地域文化賞を受賞したが、残念ながらその翌年の2003年10月に心不全のために亡くなった。

2009年には舞台芸術をはじめてとする幅広い芸術及び文化の領域における事業を行うことにより、京都における芸術文化の振興発展を図り、広く市民生活の向上と繁栄に貢献することを目的とし、京都市、京都芸術センター、公益財団法人京都市芸術文化協会、京都造形芸術大学 舞台芸術研究センター、公益財団法人京都市音楽芸術文化振興財団から成る「京都国際舞台芸術祭実行委員会」が設立された。

そして、2010年に実行委員会が主催する「京都国際舞台芸術祭(KYOTO EXPERIMENT)」が誕生。まさに、遠藤寿美子さんからバトンを受け取ったようなフェスティバルと言える。

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今年で4回目を迎える「KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2013」では、日本国内のみならず、ブラジル、フランス、イギリス、ドイツ、アルゼンチンから、世界の舞台芸術を牽引する先鋭的な作品、アーティストが京都に集う。既存のジャンル・枠組みを超えた未知なる表現に出会うことは、「エクスペリメント=実験」を冠したフェスティバルの核心と言える。

このフェスティバルで紹介されるアーティストや作品は、日本や京都で初めて紹介するものが多く、名前すら聞いたことがないものも稀ではない。つまり、「知っているから観に来る」のではなく、「知らないからこそ観に来ている」という感覚である。そんな好奇心旺盛な観客と、冒険心旺盛なアーティストたちとの連帯をもとに、このフェスティバルは成立する。

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