唯美主義
「唯美主義」は「耽美主義」「審美主義」とも呼ばれ、道徳功利性を廃して美の享受・形成に最高の価値を置く西欧の芸術思潮である。これを是とする風潮は19世紀後半、フランス・イギリスを中心に起こり、生活を芸術化して官能の享楽を求めた。
1860年頃に始まり、作品の価値はそれに込められた思想やメッセージではなく、形態と色彩の美にある、とする立場である。アルジャーノン・チャールズ・スウィンバーンがある絵画を評して曰く「この絵の意味は美そのものだ。存在することだけが、この絵の存在理由(raison d'etre) なのだ」という表現が唯美主義の本質を説明している。
唯美主義者の中ではオスカー・ワイルドなどが代表的。19世紀の末に近づくにつれ、デカダンスの様相を呈した反社会的な動きとなっていく。これは、当時ヨーロッパを席巻していた楽観的な進歩主義へのアンチテーゼでもあった。
その反社会的思潮から「悪魔主義」などと括られることもあるが、「唯美主義」自体は「悪魔主義」や「退廃芸術」とは必ずしも一致せず、むしろ、感性の復興という意味ではルネサンスとも通底している。その一方で、「神秘主義」とも相通じるものもある。フランス人作家ペラダンは「美が生み出すのは感情を観念に昇華させる歓びである」と語っている。なお、「唯美主義」の流れは日本の知識人にも影響を与え、三島由紀夫や谷崎潤一郎も唯美派に含まれる場合がある。
※続きはこちらでご覧ください。