Touch the Heartstrings

心の琴線に触れる森羅万象を日々書き綴る「Touch the Heartstrings」

木と手が編み出す組子

組子工芸は細かく削った「組手(くで)」と呼ばれる木材を組み合わせ、様々な模様を編んでいく伝統的な装飾法。

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釘や接着剤を使わず木片のピースをパズルのように組むことによって、模様や絵を作り上げていく。塗装や染料を全く使わずに木の天然の色を活かし、「木曽檜(白)」「梨(赤)」「漆(黄)」「欅(茶)」や「神代」と呼ばれる1000年以上を経た「埋れ木(黒)」などの材料を、詳細な設計図なしの経験と勘を頼りに1つ1つ丁寧に組み上げていく、遠く鎌倉時代から長い年月をかけて磨きぬかれた木工技術である。その組み方は200種類以上にも及ぶ。

ちなみに、格子・障子・欄間などの骨組みとして縦横に組んだ細い部材と言えば分かりやすいかも知れない。日本の建築・木工技術の中でも最も精緻で高度な手業の極致を必要としている。

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小学校4年生の時に、建具職人の父に連れられて一緒に行った全国建具展示会で目にした組子細工に衝撃を受け、その帰路で組子職人への道を決意した塩澤正信は、1973年長野県飯田市に生れた。

父の仕事を手伝いながら組子の研究を続けた塩澤少年は、自分も必ず全国建具展で内閣総理大臣賞を取れるような組子を作りたいと強く心に誓った。写真を真似、独自の工夫を凝らし、難易度の高い図案への挑戦を続け、中学卒業後に職人の世界へ入門するが、就職先の倒産など苦難の道を歩む。

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しかし、困難の中でも技能取得の切磋琢磨は続け、応援する多くの人に支えられ、21歳で第29回全国建具展示会に出展し、中国地方建設局長賞を受賞。1999年に独立。「有限会社塩澤工芸」を設立し、組子中心の木工業を開始。

2001年の第36回全国建具展示会に「夏障子」を出展し、最優秀賞の内閣総理大臣賞を27歳の史上最年少で受賞という栄誉と共に夢の実現を果たした。

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塩澤正信が生み出す作品の特徴は、伝承技術を忠実に守りながらも、通常では見られない曲線を多用した「創作組子」を取り入れ、「木」本来の色と精緻な組子で描き出される「木画」の芸術性である。そして今、新たな素材との組み合わせや、表現手法を研究し、従来の組子作品の領域を超えたアートインテリアの世界に挑戦している。これまで組子では表現できなかった曲線を組み込む技術を独自で開発した独創性とも絵画の様な芸術性、薄さ1ミリの木片を組み込むという高度な技術が高く評価されている。

そんな塩澤正信の作品を展示する「木と手が編み出す組子の美」展が、ミキモト本店6階のミキモトホールで5月10日より開催される。

この展示会では、平成15年全国建具展示会厚生労働大臣賞受賞作品である夏障子「夫婦松」をはじめ、学窓、衝立など約30点の塩澤作品が展示される。東京において多数の作品が一堂に会するのは初の機会。なかなか見る機会のない「組子細工」の匠の技に感動し、肌で感じる展示会である。

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