Touch the Heartstrings

心の琴線に触れる森羅万象を日々書き綴る「Touch the Heartstrings」

ベルナルド・ベルトルッチ

映画監督デビューから半世紀。ベルナルド・ベルトルッチは1941年3月16日に北イタリア・エミーリア地方のパルマで生まれた。父親は著名な詩人で文芸評論家のアッティリオ・ベルトルッチ

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父親の影響もあり、若い頃から詩作に励んでおり、1962年に「謎を求めて」と題された処女詩集が刊行され、21歳の若さで名誉あるヴィアレッジョ賞を受賞した。

その一方で、16ミリの短編映画を撮影したり、映画館に通いつめ多くの作家の映画鑑賞に熱中した。その中には、マルレーネ・ディートリッヒとのコンビで有名なジョセフ・フォン・スタンバーグ監督や、印象派の画家ピエール=オーギュスト・ルノワールの次男で、ジャン=リュック・ゴダールトリュフォーなどのヌーヴェル・ヴァーグ、そして、ロベルト・ロッセリーニルキノ・ヴィスコンティらのネオレアリズモ、他にロバート・アルトマンダニエル・シュミットなど、多くの映画作家に影響を与えたジャン・ルノワール監督、「女性映画」の巨匠と呼ばれたドイツ出身の映画監督であるマックス・オフュルス、サイレント時代の巨匠フリードリッヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ監督などの作品が多かった。

なかでも、ヌーヴェルヴァーグの旗手ジャン=リュック・ゴダールの長編映画デビュー作である、ジャン=ポール・ベルモンドジーン・セバーグ主演の「勝手にしやがれ」に衝撃を受け、以降、ヌーヴェル・ヴァーグの作品に夢中になる。

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その後、父と友人で詩壇の先輩でもあり映画監督のピエル・パオロ・パゾリーニと出会い、彼の作品の助監督を務めた。そして、1962年には「殺し」で監督デビューを果たし、流麗であり華麗なカメラワークやフラッシュバックの使用法など、ベルトルッチの映画的才能が初めてスクリーンに映し出された。そして、この作品はヴェネツィア国際映画祭で高く評価されたことから、世界的な映画監督としての道を歩みはじめた。

「赤と黒」と並ぶスタンダールの代表作である「パルムの僧院」をもとにした1964年製作の映画「革命前夜」では、ヌーヴェル・ヴァーグを思わせるおびただしい古典映画へのオマージュや引用が多く見られた。また、作品はカンヌ国際映画祭の監督週間に出品され高評価を得た。

この作品の撮影に参加した映画カメラマンのヴィットリオ・ストラーロと出会い、その後、ベルトルッチは彼とコンビを組むようになった。1970年に発表された「暗殺のオペラ」「暗殺の森」では、芸術的な色彩感覚が若手ながらも完成された撮影スタイルにより脚光を浴び、ヴィットリオ・ストラーロは監督であるベルトルッチと共に注目を集めた。2人の織りなす魔術的ともいえる映像美が官能を揺さぶり、世界中の映画ファンを魅了した。

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1972年に公開された「ラストタンゴ・イン・パリ」では、その大胆な性描写が話題の一端となり本国イタリアでは公開後4日にして上映禁止処分を受けるなど物議を醸した。日本でも下世話な話題ばかりが先行し、当時の興行成績は芳しくなかったようだ。しかし、反対に支持者も多く、ミッキー・ロークはこの映画の大ファンであり「ナインハーフ」を作るきっかけになったという。アカデミー賞では監督賞と主演男優賞にマーロン・ブランドがノミネートされたが、オスカーを受賞することはできなかった。ちなみに、マーロン・ブランドニューヨーク映画批評家協会賞の主演男優賞を受賞している。

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そして、1987年の「ラストエンペラー」で、アカデミー賞の作品賞、監督賞など計9部門を受賞。この作品に音楽を担当した坂本龍一満州映画協会理事長の甘粕正彦役を演じている。その後に製作された「シェルタリング・スカイ」「リトル・ブッダ」は、「ラストエンペラー」とともに「東洋三部作」と呼ばれている。

2007年ヴェネチア国際映画祭では75周年特別金獅子賞を、また、2011年カンヌ国際映画祭では名誉賞にあたるパルムドール・ドヌール賞を受賞する。

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ベルトルッチ監督のデビュー50周年を記念した「ベルトルッチ初期傑作選」という企画において、世界に冠たる巨匠のフィルモグラフィーの中で、日本で唯一ソフト化もされず観ることの出来なかった、最も革新的な長編第3作の「ベルトルッチの分身」が、遂に3月9日から日本で劇場初公開されることになった。

ドストエフスキーの「分身」を換骨奪胎し、「昼顔」などで知られるピエール・クレマンティ演じる主人公の青年ジャコブが、融通のきかない真面目な青年と狂暴で破壊的な殺人者という極端な2つの人格に引き裂かれていく姿を鮮烈に表現し、自身初のカラー作品。鮮やかな色彩が躍動した才気溢れる作品に仕上がっている。

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ヴィットリオ・ストラーロの撮影を得て「暗殺のオペラ」「暗殺の森」という奇跡のような傑作を生み出す直前の作品で、パンニング(カメラの位置を変えないでカメラの向きを左右に振り広い場面を写すこと)を基調としたカメラワークは、次作「暗殺のオペラ」に通じるものの、作風はむしろヌーベルバーグ、とりわけゴダールの影響が色濃い前作「革命前夜」に近い。

また、「ベルトルッチの分身」とともに、若干21歳のときの監督デビュー作「殺し」と、自伝的な作品であり、ブルジョワ階級の青年のアイデンティティーの危機を瑞々しく描いた「革命前夜」も同時上映される。

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初期のベルトルッチが映画という表現方法を通して探ってきた主題、それは自身を投影している主人公の自己探求であり、ベルトルッチはそれを「主人公とその分身的な他者」といった構図において描き続けてきた。「ベルトルッチの分身」は、まさにズバリ「分身」そのものをテーマとした作品であり、監督生活50周年を迎えたベルトルッチの創造の根源がここにある。

2003年頃から背中の痛みに襲われ、何度か手術とリハビリを繰り返し、再発した病気が映画制作を妨げていたが、去年には2003年の「ドリーマーズ」以来となる待望の新作「孤独な天使たち」を発表し、日本公開を今年4月に控えるなど、映画人生活半世紀を機にあらたな活動をスタートさせたベルトルッチ監督。

今回の「ベルトルッチ初期傑作選」は、現在のベルトルッチの世界を作り出した源流を、初期の傑作から伺い知ることができる良い機会である。