Touch the Heartstrings

心の琴線に触れる森羅万象を日々書き綴る「Touch the Heartstrings」

テッド/Ted

1月中旬に公開された「テッド/Ted」を、やっと鑑賞することができた。昨日は「映画の日」ということもあり、シネコン全体の観客も多かったのだが、公開から1か月半も経った「テッド/Ted」にも多くの観客が詰め掛けていた。やはり「テッド/Ted」人気は本物のようだ。

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命が宿ったオヤジのテディベアと自立できない中年男の奇妙な友情を描く奇天烈なコメディ映画「テッド/Ted」。愛くるしいルックスで中身はスケベなオヤジというギャップ感とバランス感がこの作品のキモである。キワドイ下ネタがギリギリセーフかアウトの微妙なところ。ま、絶妙のサジ加減とも言える。ただ、純真なお子ちゃまには見せられないR-15指定の作品なので、清純な高校生カップルの初めてのデートで鑑賞すべき映画ではないことは間違いない。

ブラックジョークに寛容で、ドギツイ表現にもそれなりに対応できるオトナが楽しめる映画だが、本当の「テッド/Ted」を楽しむには、本場の英語が十分理解できていないと難しいと思われる。それが証拠に、観客の中に1人だけいた外人さんがやたらと笑っていたが、他の観客は何事なのか分からない状態。日本語字幕にできないえげつないジョークを言っていたのだろうと想像するしかない。意訳し、字幕を制作する作業も困難だったに違いない。妙な同情をしてしまう。

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いつも仲間はずれで独りぼっちの8歳の少年ジョンは、クリスマスにプレゼントにもらったテディベアを「テッド」と名付け、まるで親友のように過ごしていた。本当の生きた友達が欲しいジョンは、天に向かいお祈りをする。すると翌朝、奇跡が起きテッドは動き話せるようになる。

本来なら、この奇跡を中心に1本の映画が作れそうなものだが、この作品は「一生の親友」を得たジョンとテッドの27年後。レンタカー屋で働き、単調な日々を送るうだつの上がらない35歳になったジョンと、見た目は可愛いテディベアだが中身は酒と女好きでドラッグ中毒のエロオヤジに成長したテッドは、今日もソファでマリファナを吸いながらB級映画を見て怠惰に過ごしていた。

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当初、奇跡のベアとしてもてはやされセレブ扱いされていたテッドだが、それが日常になると、魂が宿ったテッドの存在を周囲がごく当たり前として受け入れているという設定が面白い。そして、一発屋としての運命で見事に堕落し、酒と女とドラッグ漬けの日々を送る下品なオヤジになった姿に哀愁が漂う。

主人公を演じるマーク・ウォールバーグはなかなか興味深い役者である。ボストンの貧しい家庭で9人兄弟の末っ子として生まれ、高校中退後は様々な職につくが身に付かず、ドラッグや暴力沙汰にあけくれる日々を送ったという。15歳の時には遠足中の黒人児童たちに投石して負傷させ、人種差別的な言葉を叫んだことがあり、16歳の時には、コカインとアルコールで酩酊した状態でヴェトナム人男性を襲撃し、人種差別的な言葉で罵りながら木の棒で殴りつけて昏倒・失明させた。なお、ウォールバーグは殺人未遂の容疑で起訴され、暴行の罪を認めてボストンの感化院に収容されたが、わずか45日後に出所している。当時、ボストン警察の世話になった回数は25回におよぶという。

兄であるドニー・ウォールバーグが在籍していた「ニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック」の前身「ナヌーク」時代に参加していたが、「ニューキッズ~」のデビュー前に脱退。その後、ラップバンド「マーキー・マーク&ザ・ファンキー・バンチ」を結成。兄ドニーのプロデュースもあり2枚のアルバムをヒットさせた。なかでも「グッド・ヴァイブレーションズ」は大ヒットし、1991年10月5日付けのビルボードのシングル・チャート「Billboard Hot 100」では、見事1位を獲得。また、カルバン・クラインの下着モデルに起用されて話題にもなった。

1994年に映画デビューして以来、現在は俳優の仕事に専念している。2006年に出演した「ディパーテッド」の演技は高く評価され、第79回アカデミー賞助演男優賞や、第64回ゴールデングローブ賞助演男優賞にノミネートされた。そして、2010年には自身が主演・製作も手掛けた「ザ・ファイター」がアカデミー作品賞にノミネートされるなど高い評価を得ている。なお、2010年には「ハリウッド・ウォーク・オブ・フェーム」の星を贈られ、殿堂入りを果たした。

面白いエピソードしては、2012年6月から高校卒業資格獲得を目指し、マサチューセッツ州に開設されたオンラインによって高校卒業資格が得られる教科プログラムを履修しているという。

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個人的には「PLANET OF THE APES/猿の惑星」や「ミニミニ大作戦」、「ザ・シューター/極大射程」でのボブ・リー・スワガー役などのタフガイとしての演技が印象的で、今回の作品でのコミカルなウォールバーグには何となく違和感を感じるが、脱力キャラ系の中年男をけっこう楽しそうに熱演している姿が妙に可愛く思えてしまう。

ちなみに、テッドの声は、原案・脚本・製作・監督を務めたセス・マクファーレンが声優までこなしている。彼は、俳優、声優、アニメーター、脚本家、コメディアン、プロデューサー、監督、歌手と、マルチな活躍をする才人。テレビアニメ「ファミリー・ガイ」「アメリカン・ダッド」「The Cleveland Show」の作者として知られ、それらの番組で多数のキャラクターを演じている。セス・マクファーレンにとって「テッド/Ted」は、実写映画監督デビュー作。また、先日の第85回アカデミー賞授賞式では司会を務めたが、人種や男女差別をネタにしたブラックジョークなどで賛否両論の嵐が吹き荒れた。

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余談ながら、マクファーレンが大学時代を過ごし、マーク・ウォールバーグの故郷でもあるボストンが「テッド/Ted」の舞台。水族館やレッドソックスの本拠地フェンウェイ・パークといった名所でロケが行われている。

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ジョンとテッドの仲に不満なのが、ジョンの恋人ロリー。固い絆で結ばれたジョンとテッドに嫉妬するヒロインをウクライナのチェルニウツィー出身女優ミラ・キュニスが演じている。1995年からテレビに出演するようになり、テレビ映画「ジーア/悲劇のスーパーモデル(完全ノーカット版DVDの邦題「ジア/裸のスーパーモデル」)」では、アンジェリーナ・ジョリーが扮するジア・キャランジの少女時代を演じた。成長した今は、アンジェリーナ・ジョリーに顔がかなり似てきており、「第2のアンジー」との呼び声が高い。

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なお、2012年に男性誌「エスクァイア」11月号で「最もセクシーな女性」に選出されている。近日公開予定の「オズ はじまりの戦い」にも出演しており、今後注目の女優さんである。

結婚する決意もできないジョン。それにはテッドの存在が大きな原因と考えているロリー。交際4年目の記念日の夜、2人が食事を終え帰宅すると、何人ものオネエチャンを呼んで乱痴気騒ぎをしているテッドの姿を見たロリーは怒りが爆発。ついに「私とテッドとどっちを取るの」とジョンに選択を求めるロリー。

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その後、テッドはジョンと別に部屋を借り、スーパーで働く自立の道を強いられる。面接でのシーンやレジのオネエチャンを口説くシーンは思わず爆笑する事間違いなし。不良中年テッドの面目躍如たるシーンである。別居したテッドとジョンだが、相変わらず2人はツルんでしまう仲良しの間柄。テッドにパーティに誘われたら、ホイホイ駆けつけるダメ人間。

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結局、ロリーに愛想をつかされたジョンはテッドに八つ当たり。しかし、テッドからは「いつも人のせいにして大人になりきれないのはおまえの方だ!」と、意外に鋭い言葉が返ってくる。その後、テッドとジョンとロリーの関係はどのようになるかは映画館で確かめてほしい。けっこうジ~ンとくるから不思議なものである。

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この作品には「フラッシュ・ゴードン」ネタがけっこう多く登場し、「フラッシュ・ゴードン」を知らない人には多少「?」になるかも知れない。また、有名人が本人役で登場するシーンも見逃せない。ノラ・ジョーンズも実名で登場し、テッドとワケありの仲であったと窺わせるシーンは笑える。

実写アクション映画顔負けの迫力全開の取っくみあいの大ゲンカがあったり、千切れた耳を自分でホッチキスを使って修理したり、スーパーのバックヤードでオネエチャンとセックスシーンを演じたり、スナップ撮影ではさり気なくオネエチャンの胸に手をやる強かな面も披露するテッド。

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基本的には、アメリカ文化に詳しい人たちが現地の言葉で楽しむのが王道であるが、粗野で下品な憎み切れないチョイ悪オヤジのテッドに、心をガッツリ掴まれた女性ファンも多いようだ。テッド人気はこれからも続くことは間違いない。ある意味、凄い映画だ。